中華料理の味付け「東辣西酸」とは

中華料理の「東西」味付けの違い

中華料理の味付けについて「東辣西酸」という決まり文句があります。「東はからく、西は酸っぱい」という意味です。

これは以前に紹介した「南甜北鹹」とセットになっている言葉です。

中華料理の味付け「南甜北鹹」とは
中華料理の味付けには「南甜北鹹」というゆるーいまとめ方があります。南は甘く北はしょっぱいという意味です。この記事では中国では常識とされるこの味付けの傾向についてご紹介しましょう。

現在の常識では「辣」と言えば四川料理や湖南料理ですが、この言葉の「東辣」は別の意味を持ちます。

この記事では「辣」の意味も含めてご紹介しましょう。

東辣

東辣の「東」は太行山の東側を意味します。

太行山は別名五行山、王母山、女媧山とも呼ばれる山岳地帯です。単独の山ではなく河北、山西、河南に跨る山脈と言ったほうがよいでしょう。

ちなみに山東省という省の名は「太行山の東側」という意味の地名なのです。

ですから「東辣」は「山東省の味付けの特徴は辣だ」という意味になるわけです。

四川省が「蜀」の1文字で表されるように、山東省は「魯(ろ)」の1文字で表されます。

四川料理は蜀菜、山東料理は魯菜です。

ですから「山東省の味付けの特徴は辣だ」は「魯菜の味付けの特徴は辣だ」と言い換えることができます。

現在の中国で「辣」と言えばトウガラシの味(というか刺激)を意味します。ところが魯菜の「辣」はトウガラシの味ではありません。

実は山東省はネギの大産地なのです。ですから魯菜にはネギが多用されます。

油にネギの香りを移して食材を炒める「葱爆」という調理法も魯菜の調理技法のひとつです。

ところでお手元に資料をお持ちの方はネギの薬膳的功能を調べてみてください。「性味」の項目に「辛温」と書いてあるはずです。

ネギ
ネギは体を温める食材です。さらにネギには発汗解表の作用があります。このような作用がある食品は風邪のひき始めに食べると悪化を防ぐ働きがあるとされています(特に風寒による風邪に効果的)。

ネギの薬膳的性質のひとつに「辛」があるのです。そうです。ネギは「からい」のです!

中国の日常用語で「からい」は「辣」。つまり「東辣」は「魯菜の特徴はネギにあり!」と言っているわけです。

ちなみに薬膳理論の「辛」は「散・行」。もっと具体的に言うと食材が解表、理気、行血作用などをもつことを表します。

厳密なことを言えば薬膳理論の「味」は舌が感じる味とは必ずしも関係がない薬膳用語です。

ただしネギの場合は文字通り味が「からい」ので漢字のイメージと重なります。

ちなみにネギは解表作用のある食材です。風寒感冒のケアに最適な食材なので寒い山東省の人たちをカゼから守ってきたにちがいありません。

ネギは「薬味」と呼ばれることもありますが、文字通り薬としての作用を発揮する食材なのです。

西酸

西酸の「西」は太行山の西側を意味します。

もうお気づきのように山西省という省の名は「太行山の西側」という意味の地名なのです。

山西料理は「晋菜」と呼ばれます。

山西省は酢の産地として昔から有名です。またこの地域は小麦粉文化の土地です。山西省は麺類のバリエーションが非常に多いことで有名な土地柄なのです。

日本人も餃子を食べるときに酢を使います。このように小麦粉から作られる食品に酢で味を付けて食べる習慣は「晋菜」に起源があるという説もあります。

中国の黄土高原の習慣が「餃子の王将」にまでつながっていると思うと、食文化の浸透力はスゴイと思わざるをえませんね。

酢は古い医学書にも登場する由緒正しき調味料です。

サーマルタイプは温性で血のめぐりを改善する功能があります。

薬膳理論的には粉モノを食べ過ぎると「余計なモノ」が体内に溜まって血のめぐりを悪化させることがあるので、酢を常用することによってこのようなトラブルを予防していたと考えることができます。

現代科学の立場からは黄土高原の水はアルカリ性なので、酢を用いることでPhを中和していたという説明もあります。

どちらにしても山西省で酢が多用されるのは単なる好みだけではなく健康を保つうえでも有益な作用があるということになります。

味覚の不思議

薬膳理論の基本となる陰陽理論によると、陰と陽は互いにバランスをとるようにできています。

陰と陽は「正常な状態」なら調和を保つように働くのです。

これを生命現象に当てはめると「ホメオスタシス」という言葉になります。

生命現象の特徴は「ちょうどよい」です。負のフィードバック機構と言い換えることもできます。

何らかの要素が行きすぎるとストップをかけてバランスを回復する働きです。

この働きによって体は際限なく冷めたり温まったりせず一定の体温を保ちます。

どんなにアクティブな人でも疲れれば眠くなり休息をとります。

体には本来このようなバランス調節機能が備わっています。

同じものばかり食べていると「飽きる」というのも栄養素が偏らないためのバランス調節機能のひとつです。

食べ物の好みも環境と体の状態を調和させるためのバランス調節機能のひとつでしょう。

この機能が100%働けば体は自然に調和を保つように導いてくれるはずです。つまり食べたいと思うものを食べていれば健康になれるというわけです

ただしそのためには自分のフィーリングに忠実でなければいけません。

「もう十分」なのに食べるとか「まだ食べたくない」のに食べるということを繰り返すとフィーリングそのものが鈍ってしまいます。

特に何もしていないのにいつも健康で美しい人っていますよね。

それは単に自分のフィーリングに忠実なだけで実現できることなのです。

もしもフィーリングが鈍っているなら基本的な薬膳を試してみてください。ひと月続けるだけで「忘れていた何か」が蘇ってきますよ。

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