中国のソーセージ
日本では中国のソーセージはあまり知られていませんが、中国でも中国流のソーセージが昔から作られています。
ソーセージは北魏時代(386年-534年)の『斉民要術』に「灌腸法」として記録されています。
これが中国では一番古い記録です。たぶんもっと古い時代から作られていたのでしょう。
中国には古くから肉食の文化がありましたから肉を保存する工夫の中でソーセージを作る技術が生まれたのだと考えられます。
とにかく昔から作っているので現在に至るまでにさまざまなバリエーションが生まれています。
では現在の中国にはどのようなソーセージがあるのでしょうか。
作り方・食べ方も含めて興味深い知られざる中国ソーセージの世界をご紹介しましょう。
豊富なバリエーション
中国ソーセージにはさまざまな分類法がありますが産地による分類が一般的です。
ちなみにソーセージは中国では一般的に「香腸」、長江以南では「腊腸」と呼ぶことが多いようです。
南腸
南腸は清の時代に起源をもつ山東省のソーセージです。
黒ブタの肉に砂仁、八角、花椒など8種類の漢方薬を加えて作られます。
醤油で味を付けるので黒っぽい色に仕上がります。
南腸だけではなく中国のソーセージには味付けに醤油を使うものがたくさんあります。
醤油の割合が多いと黒いソーセージになります。
南腸は蒸して火を通してから薄切りにして食べるのが一般的です。
漢方薬、特に八角が入るので日本で食べるソーセージとはかなり違う風味になります。
広式腊腸
広式腊腸は広東のソーセージの総称です。
広東には多彩なソーセージ文化があり、数十種類のソーセージがあると言われています。
使われる肉はブタ肉だけではなくビーフ、チキン、カモ、タマゴ、エビ、カキ、イカ、貝柱などなど。バリエーション豊富です。
広式腊腸は中国ソーセージの代表格と言ってよいでしょう。中国で流通しているソーセージの50%は広式腊腸だという説もあるくらいです。
長期保存用に熱風で乾燥させたものが多く、一見するとイタリアのサラミソーセージのように見えます。
しかし味付けに砂糖が使われるのでサラミとは全く違う甘い味がします。
薄く切った広式香腸を炊き込みご飯に入れた「腊腸煲仔飯」は広東の定番料理のひとつです。
この他にもチャーハンの具や炒め物に使われます。そのまま食べることは少ないようですね。
四川腊腸
四川は肉の保存食品で有名な土地でもあります。
四川の各地にはご当地ソーセージがあり今でも多くの家庭が自宅でソーセージを作るようです。
必ずしもトウガラシを使って作るとは限りませんが、現在の中国で四川のソーセージと言えば四川麻辣腊腸ということになります。
四川麻辣腊腸はブタ肉にたっぷりのトウガラシの粉とサンショの粉を混ぜ、さらに白酒、香辛料などを加えたモノを腸に詰めて作ります。
やはり熱風で乾燥させることが多いので見た目は赤みが強いサラミソーセージ。
ただし味は四川の「お家芸」である麻辣味です。
トウガラシの刺激は非常に魅力があるようで、現在ではソーセージを自作する人は四川人に限らず四川麻辣腊腸のレシピで作る人も多いようです。
安昌香腸
伝説によると安昌香腸は明代に作られ始めた紹興のソーセージです。
ちなみに安昌は紹興内の地名です。
安昌香腸は醤油、砂糖、白酒で味を付けます。ですから南腸のように黒い色に仕上がります。しかも南腸よりも黒い!
色が黒いので燻製にしているように見えますが実は天日干しなのです。
現地では宋の高宗が黒い安昌香腸を勧められ、いやいやながら食べたところ、あまりの美味に驚き献上品にリストアップさせたという話が有名です。
現在では火を通したものを薄く切って食べたり、炒め物の具に使ったりして紹興酒のお供にすることが多いようです。
また安昌では各家庭で作るソーセージを干す光景がご当地名物になっています。
蒜腸
蒜腸の「蒜」はニンニクです。脂身の少ないブタ肉とトウモロコシなどのデンプンにニンニク、ショウガなどを混ぜたものを腸に詰めて作ります。
蒜腸は作りたてを蒸して食べます。
色は白く切断面はいかにもソーセージという感じ。
名前に「蒜」の文字があるので強烈なガーリック味を期待して食べると、意外にもニンニクの風味は思ったほどではありません。
蒸したものをそのまま薄切りにして食べることもできますが、野菜と一緒に炒めたりチャーハンの具、焼きそばの具などに使うとよろしいようです。
中国では一般家庭でも蒜腸を作るようですが、蒜腸と言えば北京の食べ物という印象が強いようです。
血腸
血腸は中国北方の伝統食品です。また少数民族の中にも血腸を作る文化があります。
ブタやヒツジを捌くときに血液をとっておき、腸に詰めて火を通して作ります。
血液に塩、コショウ、ショウガなどを加えただけのシンプルな血腸の他にも肉と混ぜて詰めるタイプのものもあります。
さらに米と血液を混ぜたものを詰めたソーセージもあります。このタイプのソーセージは米腸とも呼ばれます。
興味深いことに米腸は複数の少数民族の伝統食の中にあります。
見た目は赤黒く、味は強烈な鉄の風味。この味に慣れていない人が食べてもおいしいと感じない可能性は高いです。
ただし中国各地での血腸の位置づけは単なる食品ではありません。血腸作成には儀式的な一面があります。
動物の命をいただくことと直結した食品。
神聖な意味をもつ食品なので現地の人の目の前で「マズー!」などど言わないほうがよろしいようで。
北京灌腸
北京灌腸は北京名物のひとつです。明の時代から北京の「おやつ」として有名だったようです。大きく分けると大灌腸と小灌腸の2種類があります。
大灌腸は小麦粉に香料を混ぜたものを腸に詰め、煮て固めたモノを薄く切ってからラードで揚げて食べます。
小灌腸はデンプン、オカラなどを腸に詰めて作ります。食べ方は大灌腸と同じです。
お値段はお手ごろ価格。非常に庶民的な食べ物ですが、西太后のお気に入りだったという伝説も残されています。
肉を詰めて作るソーセージとは全くの別物。デンプン質の独特な食べ物です。私は上海で食べたことがあります。
今では北京以外でも食べることができるということです。
松花蛋腸
松花蛋腸は卵を溶いて刻んだピータンを混ぜたものを腸に詰めて作る食べ物です。
ただし現在の中国では日本の魚ソーのように腸を使わずに作られる大量生産品も流通しています。
ちなみに松花蛋とはピータンのこと。ですから松花蛋腸は皮蛋腸とも言います。
腸に卵と皮蛋を詰めてから20分くらい蒸すと卵が固まって松花蛋腸が完成します。
輪切りにすると固まった卵にピータンのモザイク模様が現れ、大理石の切断面のように見えます。
日本ではピータンをカットしてそのまま食べることが多いと思いますが、実際はさらに加工したり調理して食べる方がおいしい。
松花蛋腸はピータンを楽しむ方法のひとつの例です。
肉棗
肉棗または肉棗腸は親指の先くらいの小さなソーセージです。見た目がナツメの実のように見えるので肉棗。ポークビッツのような食品です。
肉棗は中国の各地で作られています。
炊き込みご飯の中に入れたり、包子の具にしたり、スープの具として使ったりします。
また串に刺して茹でたり焼いたりする食べ方もあります。ちょっとカワイイ料理を作るときに重宝する食材です。
香腸料理
中華料理の中にはソーセージを使った料理がたくさんあります。
例えば炒め物。
ソーセージだけを炒めるのではなくて野菜と一緒に炒めることが多いようです。
日本で野菜炒めに使われる野菜の他にもキュウリと一緒に炒める料理があります。キュウリの炒め物と聞くと意外な感じがしますが、これが結構おいしいのです。
また中国の炒め物と言えばチャーハンですが、中国ソーセージももちろんチャーハンの具に使われます。
中国ソーセージと米の相性は抜群です。
広式腊腸のところで紹介したソーセージの炊き込みご飯は中国では一般的な料理です。日本ではほとんど見かけないのが不思議なくらいです。
さらに煮物やスープの具材にも使われます。
日本では煮物の具材にソーセージを使うことは少ないと思いますが、これはソーセージの味が和風の味を破壊するからだと思います。
ただし和風の味にこだわらなければソーセージの煮物もおいしくいただけます。
ソーセージを肉まんの生地にくるんで蒸す「中華ホットドッグ」という料理もあります。これはフツウにおいしい。
中国のソーセージは日本のソーセージとは味が違うので、日本のソーセージを使って同じ味を再現することは難しいのですが日本で再現してもマズくはならないと思います。
新しい味を開拓したい方はお試しあれ!