クワは漢方薬の原料
クワはカイコのエサなのでシルクの生産とセットで栽培されていました。
少し以前には東京都内にもクワ畑があったのですがシルクの生産が下火になったせいかクワ畑も見かけなくなりましたね。
中国でも似たような事情があります。
中国は以前はシルクの輸出国だったのですが最近は輸出が減って放置されているクワ畑がたくさんあるようです。
養蚕が廃れてしまったのでクワを利用するためにブタのエサにしている地域もあるようです。クワの葉を食べて育ったブタの肉は非常においしいとのことです。
クワには別の用途もあります。クワは植物全体が薬の木なのです。
クワの葉は熱と燥による肺のトラブルを改善する漢方薬です。
クワの根の皮の部分も熱による肺のトラブルを改善する「桑白皮」という名前の漢方薬です。
桑白皮には「行水消腫」という効能もあります。これは体内の余計な水分を減らして「むくみ」を改善する作用です。
桑白皮は中国の病院では今でもよく使われている漢方薬です。
中国ではクワは薬というイメージが強いのですが近年になって食品として流通させようという動きも見られます。
クワの葉を健康食品として流行させようとするプロモーション活動が波状的に行われているのです。
餅の生地に練り込むなどの工夫をしてアピールしていますが、こちらのほうは成功しているとは言えないようです。
クワの実も漢方薬
クワの実(マルベリー)はフルーツであると同時に「桑椹(そうじん)」という名前の漢方薬でもありす。中国では使用頻度がまあまあ高い薬です。
フルーツとしてのクワの実を収穫するには大きな実がつく品種を植えなければならないようです。
ですから養蚕用のクワ畑をフルーツ収穫用に転用しようと思っても難しい一面があるようですね。
薬としてのクワの実はフルーツそのものの姿をしているわけではありません。
正確に言うと中国の病院の薬局にはクワの実を乾燥させたものが保管されているのです。つまり桑椹はドライフルーツなのです。
そのまま食べてもおいしい漢方薬は珍しいのですが桑椹はその珍しい漢方薬のひとつです。
桑椹のサーマルタイプは寒です。
体を冷ますという点は重要なのでおぼえておいて損はないですよ。
功能は滋補肝腎です。
つまり腎陰と肝陰を補う作用があるというわけです。
専門家向けに言えば肝腎陰虚のケアに使う薬なのですが、ふつうは肝腎陰虚が何かわからないですよね。
肝腎陰虚
肝腎陰虚はざっくり言えば「陰」が不足した状態です。
陰には陽の作用が行きすぎないようにブレーキをかける作用があります。例えば陽は体を温める作用なので、陰はその逆に体を冷ます作用があります。
ですから「陰」が不足すると体の寒熱のバランスが「熱」に傾きます。これを虚熱と言います。詳しくは「熱ってなに?」の記事をご覧あれ。
また陽の作用に十分なブレーキがかからないので、肉体的にも精神的にも休息状態になりにくくなり、不眠や不安定な情緒に誘導されてしまいます。
さらに陰には「からだを潤す」作用があります。この作用が弱まると潤いが失われた状態になります。具体的には乾燥肌やドライアイ、さらには便秘になることもあります。
もっと細部に着目すれば、耳鳴りや性的機能のトラブルがあれば腎陰の不足、かすみ目やドライアイなどの症状があれば肝陰の不足ということになります。
以上のような肉体や精神に現れる異常を観察して肝腎陰虚かどうかを判定(弁証)するわけです。
さらに鍼灸師の中には経絡の状態も参考にしながら精密な弁証を行う人もいます。
クワの実は薬膳的には「補陰」食材
臨床上は肝腎陰虚の典型的なサインはなかなか揃わないので総合的な判断が必要になります。
つまりテキストに書いてあるような人はなかなかいないので、肝腎陰虚だと判断するのはけっこう難しいわけです。
薬膳的には肝腎陰虚かどうかで判断するのではなく、もっと大きなフレームで判断したほうが間違いがありません。つまり「肝腎陰虚かどうか」ではなく「陰虚かどうか」を判断すればよいのです。
そしてクワの実は「陰虚」をケアする食材だとおぼえておくとよいのです。
陰虚をケアすることは、虚熱をケアすることと「燥」によるトラブルをケアするというふたつの意味を持ちます。
虚熱かどうかは薬膳理論の基本的な知識があれば判定できます。
まだそこまで勉強していない人はサイト内のサーマコンディション分析をご利用ください。薬膳理論の知識がなくても虚熱かどうかの判定ができます。
桑椹の加工品
中国ではクワの実を酒に漬けた「桑椹酒」が薬用酒として有名です。
クワの実と氷砂糖を蒸留酒(中国では白酒)に漬けて3カ月もすると赤ワインのような色の「桑椹酒」が完成します。
功能はクワの実と同じく滋補肝腎です。ここから派生して明目、補血、通便、さらに白髪予防などの作用があります。
どうしてそうなるかすぐにわかった人は勉強のし過ぎです。本を捨てて街に出ましょう!