「寒」は薬膳用語です
寒は体が冷えている状態を表す言葉です。ただし体温とは関係がありません。
体温が平熱よりも高くても薬膳理論的には「体が冷えている」と判断することもあります。
薬膳理論によると舌の色が白っぽいとか、温かいものを食べたがるとか、寒がりであるなどのサインを総合して体が冷えていると判断します。
寒の種類
寒には大きく分けてふたつのパターンがあります。実寒証と虚寒証です。
実寒証と虚寒証ではケアの方法が違います。言い換えると実寒証と虚寒証ではケアに使う薬膳のタイプが違います。
ですから体が冷えている人をケアするときにはまず実寒証と虚寒証を区別する必要があります。
実寒証
実寒証は陰が強すぎるせいで体が冷えている状態です。
私たちの体の中には体を冷ます作用をもつ成分がいくつかあって、それらをまとめて「陰」と言っています。
ところが実寒証の原因となる「強すぎる陰」というのはモトモト私たちの体内にある有益な成分ではありません。体の外から一時的に入ってきた体を冷やす「何か」なのです。
この「何か」にはいくつか種類があります。
いちばんよくないのは「寒邪」と呼ばれる病気のモトです。読み方は「かんじゃ」です。
「寒邪」が体に入ると体を冷まします。体の抵抗力は「寒邪」を追い出すために戦いを始めます。これがいわゆるカゼを引いた状態です。このとき体温計で体温を計ると熱が出ています。
でも漢方的には「体が冷やされている」と判断します。「寒邪」の影響で体が冷えのサインを出すからです。
ちなみに「熱邪」というタイプの病気のモトが体に入ったときもカゼを引いた状態になります。このときは漢方的にも熱があると判断します。
漢方はこのふたつのタイプのカゼを区別します。ですから同じカゼでも場合によってケアに使う漢方薬が違うのです。
「寒邪」の他にも体を冷ます「何か」が存在します。
例えば環境の「陰」です。季節が冬に近づくと環境の陰が強くなり、この影響で体が冷えることがあります。また体を冷ます食べ物や飲み物も体を冷やす「何か」に相当します。
体を冷やす「何か」の影響で体が冷えている場合はの特徴は急激な体調の変化です。急に寒さに弱くなるとか急に下痢気味になるなど不調のパターンはさまざまです。
実寒証になると急に体調が変化するのでビックリしますが、多くの場合は一時的にバランスが乱れているだけです。
体を冷やす「何か」が体の外に出てしまえばモトにもどります。
実寒証の場合にはそれ以上体を冷やさないことが大切です。ですから体を温めるタイプの薬膳が適しています。このような薬膳を温性の薬膳と言います。
体が冷えているから温めるという常識的な対応でOKというわけですね。
虚寒証
虚寒証は陽が弱すぎて体を十分に温めることができない状態です。
陽は重要な生命エネルギーです。このエネルギーレベルが低下しているわけですから実寒証と比べると虚寒証のほうがしっかりケアしなければいけない状態です。
虚寒証の特徴は何かしらの慢性的な体調不良です。冷え性は典型例ですが、このほかにも食欲不振とか下痢気味になることもあります。
このような場合には陽を強めるタイプの薬膳が適しています。そのような薬膳を補陽薬膳と言います。
ただし補陽作用がある食材は数が限られているので温性の薬膳を使って陰陽バランスが自然に回復するのを待つ方法もあります。
体を冷やすと陽のエネルギーをさらに消耗するので体を冷ます食材は少しだけ使うようにすると良いでしょう。涼性の食材をぜんぜん使わないのは反ってよくありません。
これは陰中求陽という漢方理論からの結論です。詳しく知りたい人はインナーバランス・トリートメントのテキストをご覧ください。
実寒証と虚寒証の区別
実寒証と虚寒証を区別するには急に体を冷ますようなイベントがあったかどうかを調べるのが一番簡単で確度が高い方法です。
急な環境変化や普段食べなれないものを食べたなどのイベントがあれば実寒証のことが多く、特に思い当たることがない場合は虚寒証の可能性が高いと考えるとよいでしょう。