薬酒に薬膳理論を生かす

中国の薬酒ってどんな感じ?

「酒は百薬の長」と言いますが中国ではそのお酒にさらに漢方薬を入れて「薬酒」を作る習慣があります。

今では薬酒メーカーの製品もありますが自作の薬酒を作る人もいます。

薬酒を作る目的は自分の健康維持や病気の治療ですが意外な目的で薬酒を作る人もいます。

今回は興味深い中国の薬酒文化をご紹介しましょう。

薬酒の歴史は長い

中国最古の医学書が出土した馬王堆漢墓(まおうたいかんぼ)からは薬酒について書かれた記録が発見されています。

当時の薬酒は麦冬、石膏、牛膝など現在でも使われている漢方薬を混ぜて作られた米の醸造酒でした。

中国医学は病気が進行すると病気は「深い」ところに潜って行くと考えています。

お酒は薬の作用を「深い」ところまで届ける働きがあるとされています。ですから中国では医学とお酒は縁が深いのです。

薬膳や漢方に興味のある人なら『黄帝内経』をご存知でしょう。

『黄帝内経』は漢方医学の古典中の古典です。『黄帝内経』は中国伝統医学の世界では数ある医学書の中でも別格の扱いを受けています。

『黄帝内経』に書いてあることを100%理解すれば全ての病気を治すことができるとさえ言う人がいるほどの書物です。

その『黄帝内経』の中にも薬酒による治療法が書いてあります。病気が悪化してしまったときに薬の作用を病巣まで届けるために薬酒を使ったようです。

司馬遷の『史記』には淳于意(じゅんうい)という医師が薬酒を使って済北王の病気を治したという記録もあります。

『傷寒論』をはじめとする数多くの医学書の中にも薬酒は登場します。

日本ではあまり知られていませんが薬酒は漢方医学の世界ではなくてはならない存在だったのです。

どんな薬酒があるの?

ちょっと難しい話になりますが中国の漢方医学の最大の特徴は「弁証論治」です。

簡単に言えば患者さんのコンディションに応じてそのつど薬を調合するのが「弁証論治」です。出来合いの薬を使うのではないというのがポイントです。

薬酒も同じです。

薬酒は飲む人のコンディションに合わせてカスタムメイドするのが理想的です。ですから中国の薬酒の種類は理論上は人の数だけあります。

薬酒を自作する人のためのマニュアルには100を超えるレシピが載っていることも珍しくありません。

しかし人の数だけ薬酒の種類があるというのは理論上の話であって実際は違います。

漢方の治療現場で「葛根湯」のような決まった処方を使うのと同じように定番の薬酒というものがあるのです。

定番の薬酒は長い歴史の中で生き残った優れた薬酒なので今でも多くの人が愛飲しています。

その特徴のひとつは「まあまあおいしい」です。

体の状態だけを考えて薬酒を作るととてもマズイものになってしまいます。スゴク苦いとか強いクセがある薬酒は何日も続けて飲む気がしません。

おいしくなければ生き残れないというのは薬膳にも通じる特徴なのです。

名前が知られている薬酒には次のようなものがあります。

枸杞酒、地黄酒、鹿角酒、松根酒、虎骨酒、五加皮酒、茯苓酒

これらの名前は漢字からどんな薬酒か一目瞭然です。

全て「漢方薬の名前+酒」という名前です。

五加皮酒などは今でも複数のメーカーが生産している定番商品です。

また端午の節句の菖蒲酒、中秋の桂花酒、重陽節の菊花酒のように一年の節目の時期に薬酒を飲む習慣も定着しています。

中国に薬酒が誕生したころには醸造酒しかなかったので薬酒を自作するには時間と手間がかかっていました。

蒸留酒が現れるとお酒に漢方薬を漬けるだけで薬酒ができるようになったので清の時代には非常にバリエーションが増えたそうです。

当時は蒸留酒で作る薬酒は「○○露」と名付けられることが多かったようです。

例えば茵蔯露、山査露などの薬酒が売られていたそうです。

今でも薬酒を自作する人は蒸留酒に漢方薬を漬けて作っています。

ヘビやトカゲ入りの薬酒もありますがあれは実は例外的な薬酒です。通常は植物性の漢方薬が使われています。

現代中国の意外な用途

現在の中国で薬酒を自作する人たちの中には一風変わった目的を持つ人たちがいます。

それは釣りです。

釣り餌に薬酒を混ぜると大きな釣果が期待できるというのです。そういう場合に使う漢方薬は匂いの強い阿魏(あぎ)などです。

阿魏(あぎ)についてもっと知りたい人は『読む漢方薬』をご覧ください。

漢方薬のブレンドによって釣果が変わるようなので、釣り師はそれぞれ薬酒の調合に一家言あります。

中国のインターネット上には自作の薬酒を使って大きな魚を釣り上げたという情報がたくさんあります。

そういうブログには自慢の薬酒レシピが載っていることもあります。

釣りが趣味だという人は参考にしてみてはいかがでしょうか?

タイトルとURLをコピーしました