お酒と漢方の意外な関係

漢方とお酒の関係は?

日本の漢方にも大きな影響を与えた『傷寒論』をはじめ多くの医学書の中には酒が登場します。

「酒は百薬の長」と言いますから酒は薬の一種という面があります。しかしそれだけではありません。

漢方の世界で酒はどのような役割をもつ存在なのかご紹介しましょう。

酒の種類

『傷寒論』の中に登場する酒には3種類あると言われています。それは「酒」「清酒」「苦酒」の3種です。

この時代の「酒」は醸造酒です。

そして『傷寒論』の中の「酒」は今の日本で「紹興酒」と呼ばれ、中国では「黄酒」と呼ばれる酒に相当すると言われています。

アルコール度数は15度くらいです。現代の「薬酒」はアルコール度数が高い蒸留酒でつくりますが、このような「薬酒」と昔の医学書に出てくる「酒」は別物です。

この「酒」は漢方薬を加工するために使われていました。具体的には「大黄(だいおう)」という漢方薬を酒を使って加工していたのです。

現在の日本でも使われている小承気湯の大黄は「酒」で加工した大黄です。

大黄は簡単に言えば便秘薬です。酒を使って加工したのは便秘薬としての効能を強化するためだったと考えられています。

清酒

清酒はもち米から作る醸造酒です。

このタイプの酒は日本では「どぶろく」とか「濁り酒」と言われます。中国でも「濁酒」という呼び方があります。

「清酒」は濁り酒の上澄みの透明な部分を意味します。

現在では省略されることが多いのですが、炙甘草湯を煎じるときには「清酒」を使うことになっています。

この場合は清酒の薬膳的な効能を意識した使い方です。酒には温行気血、補虚、通脈などの効能があります。

炙甘草湯の場合は経絡の中の「めぐり」を促進する「通脈」という効能を強化するために使われています(いました)。

ちなみに当時は濁り酒の濁った部分を「白酒」と呼んでいました。

現在の中国では「白酒」はコーリャンから作るアルコール度数が高い蒸留酒です。酒のタイプとしては全く違うものなので注意が必要です。

例えば『金匱要略』の中の栝楼薤白白酒湯(かろうがいはくはくしゅとう)の「白酒」は醸造酒の「白酒」です。

栝楼薤白白酒湯は日本でも使われる漢方薬ですが今では酒を使わないのが一般的です。

以上のようにもともとの作り方とは違う作り方で提供される漢方薬はかなりたくさんあります。

酒の薬効を前提として作られた漢方薬から酒を抜いた場合に効き目が違ってくるのは当然でしょう。

中国でも酒を使う処方から酒を省略する例は多い(というよりも一般的)のですが、酒を使う作り方にこだわる人もいるのです。

苦酒

医学書に限らず漢の時代の書物には「苦酒」という言葉が出てきます。

苦酒の正体については諸説ありますが、酢を「苦酒」と言っていたという説が有力です。

酒という文字が使われているのはいったん酒を作りさらに酢酸発酵させて酢を作っていたことを想像させます。完全に酢になり切らずに酒の風味が残っていたのかもしれません。

苦酒を使う例としては「苦酒湯」という処方があります。のどのトラブルで声が出ないような状態をケアする漢方薬です。

苦酒湯は「たまご」も使う薬膳的な漢方薬です。

蒸留酒

李自珍の『本草綱目』の中には蒸留酒が出てきます。

李自珍は明代の人です。当時は蒸留酒は「火酒」と呼ばれていました。李自珍は「昔の酒とは違う(非古法也)」と書いています。

この時代にはすでに米や麦などいくつもの穀物を原料にした蒸留酒が作られていたようです。

また李自珍は蒸留酒を「純陽毒物」とも書いています。

漢方の「毒」は絶対に口にしてはいけない毒物とは意味が違います。

使い方を間違えると悪影響があるので気をつけなければいけないというくらいの意味です。

熱性が強いのでサーマルコンディションが「熱」の人は控えるべき酒だということです。

逆に「寒」の人のコンディションを改善するには非常に有効な酒だと考えられていました。

また蒸留酒にブタの脂や蜂蜜、ゴマ油、茶を混ぜた漢方薬が「寒痰咳嗽」の薬として記録されています。つまり「寒」を改善する作用によって咳を治そうとしていたわけです。

「酒は百薬の長」とは言いますが、どんなときでも有効な薬とまでは言えません。

漢方にせよ薬膳にせよサーマルコンディションを判定することは非常に大切です。寒熱のコンディションを判定しなければ強いお酒が体に合っているかどうかはわかりません。

ご自身のサーマコンディションはこのウェブサイト内のツールで分析できます。

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