発酵食品「臭豆腐」の世界

臭豆腐とは

臭豆腐は豆腐の発酵食品です。

伝説によりますと明を建国した朱元璋がカビが生えた豆腐を食べたのが臭豆腐の始まりだと言われています。

幼いころの朱元璋は非常に貧しくてホームレスのような生活をしていました。

あるとき古くなって捨てられていた豆腐を油で揚げて食べたところ驚くほど美味だったそうです。

その記憶が朱元璋の心に残っていて、後に軍の総帥に昇進(皇帝になるのはさらに後)したときに全軍に臭豆腐をふるまい、それがきっかけで臭豆腐を食べる習慣が広まったと言われています。

食べるものがないのに豆腐を揚げる油があったという点を気にしてはいけません。

食べ物の由来を歴史的な有名人と結びつけて語るのが中国の流儀なのです。

臭豆腐のバリエーション

臭豆腐は「豆腐あるところに臭豆腐あり」と言ってもよいくらいの保存食品です。

つまり中国各地に「ご当地臭豆腐」があるのです。

現在の臭豆腐は単に「古くなって腐った豆腐」ではなくて、わざわざ発酵させて作られる加工食品です。

豆腐そのものを醗酵させる場合もありますし日本のクサヤのように発酵したつけ汁に漬けて作る方法もあります。

どちらにしても作り方の詳細は産地によってもメーカーによっても少しずつ違います。

また農村部では先祖代々の秘伝に基づいて自作することも珍しくありません。

ですから臭豆腐には豊富なバリエーションがあるのです。そんな中でも特に有名な臭豆腐がありますのでご紹介しましょう。

長沙の臭豆腐

湖南省の省都・長沙は漆黒の臭豆腐(上の画像)で有名です。

中国では長沙に旅行に行ったら必ず食べる小吃ということになっています。

長沙の臭豆腐は切り分けた豆腐をまっ黒いつけ汁に数時間漬けたものです。発酵しているのは豆腐のほうではなくつけ汁のほうです。

つけ汁はタケノコ、シイタケなど20種類ほどの材料を2年間発酵させて作るそうです。

つけ汁はものすごく臭く黒いので、その匂いと色が豆腐に移って漆黒の臭豆腐ができるのです。

長沙の臭豆腐は謎多きつけ汁のレシピと2年間の熟成期間がないと作ることができませんから、他の地方では食べられない独特な食品です。

紹興の臭豆腐

魯迅のふるさと紹興には黴莧菜梗という漬物があります。これはヒユという植物の茎を醗酵させた食べ物です。

非常に強烈なニオイがするのですが、そのニオイをむしろ楽しむかのような蒸し物などにして食されています。

ヒユの葉は食用になりますがクキを食べるのは紹興一帯の独特な習慣だと言われています。

黴莧菜梗を醗酵させるのは簡単です。

ヒユのクキを5センチくらいの長さに切って水の入ったカメに放り込んでおくと発酵が始まり小さなアワが出てきます。

そこまで発酵したら取り出して塩を振り、さらに寝かせて発酵させればできあがりです。

最初の発酵に使った水は見た目からは想像もできないほど強烈なニオイを放つ液体に変貌しています。この液体に切り分けた豆腐を漬けると紹興の臭豆腐が完成します。

色はモトの豆腐の色に近く、揚げて食べると超絶美味なので紹興の名物料理のひとつになっています。

紹興からかなり離れた上海でも「紹興の臭豆腐」と銘打った揚げ臭豆腐を売っています。

黄山の毛豆腐

「天下第一奇山」で有名な黄山には毛豆腐という食べ物があります。

黄山の毛豆腐は豆腐を作るときにわざわざカビの胞子を加えて真っ白で長いカビをはやした豆腐の発酵食品です。

毛豆腐は臭豆腐とは違いますが多くの臭豆腐は先ず豆腐を毛豆腐の状態まで加工してから調味液に漬けて作られます。

つまりこれは臭豆腐の原型なのです。

朱元璋が食べたのはこのような豆腐だったハズです。

毛豆腐の本場・黄山では毛豆腐を焼いて食べます。

このときアルコール度数の強い白酒と一緒に食べるのがひとつのスタイルになっています。

あまりにも有名な毛豆腐は黄山旅行の must だと言われています。つまり黄山ではカビが生えた豆腐が名物の地位に君臨しているのです。

青方

青方は臭豆腐乳とも呼ばれる豆腐乳の一種です。

豆腐乳は水分の少ない豆腐を塩漬けにして寝かせた豆腐発酵食品の総称です。

豆腐乳には紅方、白方などさまざまな種類があるのですが、その中に青方と呼ばれる種類があるのです。

中国で青方と言えば王致和です。

王致和は現在では青方メーカーの名前ですが、もともとは清の時代のある人物の名前でした。彼は一体どのような人物だったのか?

王致和は安徽省の出身ですが科挙の受験のために北京に来ていました。

しかし超難関の科挙。あえなく落第してしまいます。

科挙に落第した王致和は地元で豆腐を商った経験があったことから豆腐屋を始めます。次の科挙を受験するまでの生活費を稼ぐ必要があったからです。

ある夏の日、売れ残った豆腐を切り分けて塩や香辛料を振りかけてカメの中にしまっておきました。このようにすると短期間の保存に耐えたようです。

ところが王致和はそのことを忘れてしまいました。秋になってカメをあけたところ青く変色した豆腐が奇臭を放っていたのです。

ここで捨てないのが現代人と昔の人の違いです。昔は食べ物が今よりもずーっと貴重だったのです。

王致和はその恐るべき青い豆腐を食べてみました。驚いたことに非常に美味ではないですか!

王致和は科挙受験を止めてその青い臭豆腐を専門に作る商売を始めました。それが今のビッグ・カンパニーである王致和の由来です。

王致和の臭豆腐は北京で評判になり宮廷料理にも採用されることになりました。

西太后も王致和の臭豆腐を気に入っていたようです。

しかもさすがは女帝。臭豆腐という名前がエレガントではないということで「青方」の名前を下賜したのです。

それ以来、王致和の臭豆腐は「青方」と呼ばれることになったそうです。

以上が青方の由来についての伝説のひとつです。

青方の由来についてはこのほかにもいくつもの伝説があります。

さまざまな物語と伝説の中で語られる青方は単なる食品というよりも文化的な象徴です。

「北京人にとっての青方はアメリカ人にとってのコカ・コーラと同じ」とすら言われているくらいです。

青方は先ず豆腐を毛豆腐の状態にしてから塩漬けにし、それをさらに調味液に漬けて作られています。

この調味液のレシピは門外不出の秘密。コカ・コーラの成分と同じくらいの謎なのです。

食べ方など

臭豆腐は揚げたり焼いたり蒸したりして食べます。

また青方は刻んだネギと一緒に饅頭につけて食べます。柔らかいのでバターのように塗ることができます。

このような直接的な食べ方だけではなく料理にも使われます。

おすすめは炒め物です。たまご、パクチー、ピーマン、豆などさまざまな食材と一緒に炒める料理があります。

中国のウェブサイトで調理法を検索すると蒸し物もたくさんヒットしますが、個人的には蒸し物は匂いが強調されるのであまりお勧めしていません。

豆腐を醗酵させる目的は匂いではなく旨味を増強するためです。調理の仕方としては、うま味を生かし匂いを抑える方法が適していると思います。

臭豆腐を作るときの核心的な内容は秘密にされていることが多いので臭豆腐の正確な薬膳的効能は謎です。

少なくともサーマルタイプは寒性だと考えてよいでしょう。豆腐の寒性は原料の石膏からくるものですから、発酵しても大きな影響はないと思われます。

ほとんどの文献に「塩分が強いので食べ過ぎに注意」と書いてあります。

もともと少しだけ食べるものなので機会があれば恐れずに食べてみると新たな境地が開けるかもしれませんよ。

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