薬膳的お肉の選び方
肉料理を食べたいと思ったときにビーフにするかポークにするかチキンにするか迷うことがあるのではないでしょうか?
こういうときに「体に合った食材を選ぶ」という方針でお肉の種類を選ぶのが薬膳的な発想です。
野菜の種類は豊富なので薬膳的な作用をおぼえるのは大変ですがお肉の場合はビーフ、ポーク、チキンの3種類だけ知っていればよいでしょう。
鹿肉、マトン、カモなどを使うこともあるかもしれませんが、そういう食材の功能はそのつど調べればよいわけです。
薬膳は「お勉強」ではありません。
日々の食事の中でよく使う食材がどのような働きをするのか。それが一番大切な知識です。
サーマルタイプの比較
食材の性質の中でサーマルタイプはいちばん基本的で重要な性質です。
食材のサーマルタイプには温性、平性、涼性の3種類があります。温性は体を温める作用、涼性は体を冷ます作用、平性は体の寒熱バランスを変えない食材の性質です。
寒熱のバランスは陰陽のバランスと深く結びついています。そして陰陽のバランスはその人のコンディションの大枠を決める生命エネルギーの状態を表しています。
ですから陰陽と寒熱のバランスをおろそかにして気・血・津液などの状態を改善することはできません。
食材の効能をおぼえるときは細かい功能よりもサーマルタイプを重視します。お肉のサーマルタイプは以下のようになっています。
ビーフのサーマルタイプは平性
ポークのサーマルタイプは平性
チキンのサーマルタイプは温性
ポークのサーマルタイプについては涼性とする文献もあります。サーマルタイプは非常に重要な性質なのに、このように文献によって評価が違うケースは少なくありません。
文献によって評価が違う理由はいくつか考えられます。
動物のお肉の場合は飼育環境(土地、エサの種類、育て方など)の影響によって変化があるケースが多いと考えられます。
このウェブサイトでは中国の複数の文献を検討した結果、豚肉のサーマルタイプを平性としています。
ビーフとポークは寒熱の状態(サーマルコンディション)に影響を与えない食材ですから、誰が食べても寒熱バランスを悪化させることはありません。
チキンは体を温める食材なので体が冷えている人に向いている食材です。逆に体が余計な熱を持っている場合は体を冷ます食材と一緒に調理するなどの工夫が必要です。
功能の比較
3種のお肉の効能は以下のようになります。
ビーフの功能は補脾胃、益気血、強筋骨
ポークの功能は滋陰潤燥
チキンの功能は温中益気、補精添髄
食材の功能は千差万別なのですが、サーマルタイプの次に重要なのは気・血・津液の状態をどのように変化させるかという点です。
気・血・津液の状態を変化させるパターンとしては、少ない要素を増やすパターン(補気、補血、補陰)と「めぐり」を改善するパターン(理気、行血、利水など)です。
「めぐり」を改善する作用は体の中の「余計なモノ」をデトックスする作用と重なることが多いのですが、単にデトックス作用と考えるよりも気・血・津液との関係を意識することが大切です。
気・血・津液の状態をどのように変化させるかを十分に理解したうえで最後に「臓腑」への影響を考えます。
ただし「臓腑」への影響は薬膳理論の中でも高度なので、よほどこだわりがある人以外はそこまで意識する必要はありません。
気・血・津液との関係
3種のお肉の効能を気・血・津液の状態をどのように変化させるかという視点で整理すると次にようになります。
ビーフは気と血を補う
ポークは津液を補う
チキンは気を補う
少し難しい話になりますが、このように整理するとサーマルタイプとの関連性が見えてきます。
気は陽に属し、血と津液は陰に属します。
気だけを補うチキンは陽を補う食材ということになるので温性食材です。
ビーフは気と血を補うので陽と陰を補うことになります。陽と陰を同時に補うので平性になります。
ポークは津液を補うので陰を補うことになります。ですから理論的には涼性という評価もありうるわけです。
以上のように気・血・津液への作用と食材のサーマルタイプには多くの場合に関連性があります。
ただし例外もたくさんあります。
たとえば気を補う食材なのにサーマルタイプは平性というケースもありますし、血や津液を補う食材が平性というケースもあります。
原則として気を補う食材は温性で、血・津液を補う食材は涼性のことが多いとおぼえておくとよいでしょう。
気・血・津液との関係で言えばビーフは気も血も補うので非常にバランスがよい食材です。
気を集中的に補いたいときはチキンが適しています。津液を集中的に補いたいときはポークが適しています。
例えば乾燥肌を改善したときは血や津液が不足しているケースが多いのでビーフやポークが適していると判断します。
なお、ポークは津液を補う作用が強いので過剰な摂取は体内に「痰」などの「余計なモノ」を生み出す原因になるとされています。
薬膳は体に合ったものを「大量に集中的に」食べると逆効果になるので注意が必要です。
臓腑との関係
3種のお肉の効能を臓腑への作用で整理すると以下のようになります。
ビーフは補脾胃
ポークは補腎
チキンは温中
この場合の「温中」は実質的には脾と胃の機能を強化するという意味です。その意味ではビーフとチキンの功能は似ています。
ポークの補腎は腎陰を補うという意味になります。
『本草綱目』にはチキンスープを耳鳴りの治療に用いる例が紹介されています。薬膳理論をかなり勉強したことがある人は補腎と耳鳴りの関係をご存知でしょう。
必要な知識
臓腑の機能はそれぞれに影響し合っています。また臓腑のコンディションは気・血・津液との関係で変化します。
ですから臓腑への作用を考えながら漢方的ケアをするには非常に高度な知識と経験が必要になります。言い方を変えると非常に難しいわけです。でも心配ご無用です。
薬膳を作る場合にはこのレベルの知識までは必要ありません。
薬膳の作用にはプライオリティーがあります。
まずサーマルタイプがどうなっているか。これが第1です。サーマルタイプをしっかり設定するだけでも十分に薬膳として機能します。
さらにステップアップしたときに気・血・津液の状態への影響を考えます。ここまで考えて薬膳を作れば非常に完成度の高い薬膳になります。
臓腑への影響は最後に考えるべき課題です。
この順番が非常に大切です。最初から「肺の薬膳」とか「腎の薬膳」を考えると応用が効かなくなります。
中医学ベースの薬膳理論を学んだ方は八綱弁証、気・血・津液弁証、臓腑弁証の順で学んだはずです。この順番には深い意味があります。
先ず森全体を見てから次第に1本1本の木を見るという順序がカリキュラムの中に秘められているわけです。
これから薬膳を勉強しようという方はインナーバランスには重要度に応じたレイヤー(分析のための階層)があることを知っておくと知識が整理されて学習がはかどりますよ。
要するに言いたいのは、薬膳というのは難しく考えてはいけないということです。
簡単だけどすごく重要な知識と難しいけどあまり役に立たない知識を区別して、重要な部分を集中的に勉強すれば薬膳はとても簡単なのです。
インナーバランスのレイヤーを意識したカリキュラムで薬膳理論を勉強してみたいという人は
インナーバランス・トリートメントのテキストをご利用下さい。