中国の8大菜系

中華料理にもいろいろあります

中国は広いので中華料理には地方ごとの特徴があるとされています。地方ごとの特色は無数に存在しますが、代表的な料理の系統を8大菜系と言っています。

8大菜系は単に料理の系統というだけではなく、土地ごとの味の好みを反映しているので、8大菜系の知識があると出身地を聞いただけでどんな味付けが好きか想像できます。

4大菜系

8大菜系という分類法が一般化する以前に4大菜系という考え方がありました。

4大菜系は四川菜、山東菜、広東菜、淮揚菜です。

清の時代が終わるころにはさらに閩菜、浙江菜、湘菜、徽菜が加わって8大菜系になりました。

現在でも相互の類似性や影響の広がりから判断すると4大菜系に分類するのが適切という意見もあります。

要するに四川菜、山東菜、広東菜、江蘇菜の4系統がトラッドということなので、この4系統からご紹介しましょう。

四川菜

四川料理の起源は春秋戦国時代にまで遡ると言われていますが、当時の中国にはトウガラシが伝来していませんでしたから、今の四川料理のような麻辣味ではありませんでした。

中国で食用のトウガラシが大量に生産されるようになったのは清の時代になってからです。

それまでの四川料理は北方の影響を受けた料理が多く、簡易化された満漢全席のようなものだったという人もいます。

19世紀の中ごろから四川菜の特徴として麻辣味が挙げられるようになり、現在の四川料理のイメージに沿った味付けが一般化したようです。

麻婆豆腐、魚香肉絲、担々麺など日本でも有名な料理がたくさんあります。

個人的にはウサギの肉を使うのも四川料理の特徴のひとつになっていると思います。

ウサギは四川省では当たり前の食材ですが別の地域ではあまり食べないので、同じ中国人でも好みが分かれる食材です。

山東菜

山東菜は中国では鲁菜と書かれることも多いですね。これは春秋時代の鲁国からくる呼び方です。

この地域は元の時代から現在に至るまで政治の中心地ですから中国の宮廷料理の基礎は山東菜なのです。

山東省には海の幸が豊かですから海鮮料理のバリエーションも豊富です。

山東菜は豪勢で正統派の食材を用いる中華料理の典型だと言われています。

正統派の食材を使うというのは、言い換えれば珍しい食材はあまり使われないということです。

山東省はネギの生産で有名な土地柄だけあって、葱爆、葱焼などネギを用いた調理法が多いのも特徴のひとつです。

葱焼海参、九転大腸、烏魚蛋湯など中国ならではのラインナップが多いので、山東菜を食べればいかにも中華料理を食べた気になれるでしょう。

広東菜

広東菜といえば中国でも「何でも食材にする」と言われる菜系です。

山東料理が正統派なら広東料理は「選料珍奇」と言われているのです。

珍奇とは言っても実際には海鮮料理をイメージすることが多いですね。

広東料理は手の込んだ調理が特徴とされています。それだけに人件費が割高になるので中国各地の広東料理店の店舗数は四川料理店などと比べて少ないと言われています。

飲茶(ヤムチャ)も広東の食文化のひとつです。

確かに飲茶のメニューには手がかかる品が多いですね。

食は広州にあり(食在广州)と言われるくらいですから味も料理のバリエーションも抜群です。

広東料理は単なる食事ではなく「文化」だそうです。つまり食卓の雰囲気込みで広東料理ということでしょう。

本当の広東料理を味わいたければ広州に行くしかないという結論になります。

ちなみに食は広州にありの続きは、服なら蘇州、遊ぶなら杭州、死ぬなら柳州(穿在苏州 玩在杭州 死在柳州)です。

死ぬなら柳州だけわかりにくいでしょう。柳州は木材の名産地で棺の材料がとれるからです。

淮揚菜

淮揚菜は揚州、淮安(江蘇省中北部、江淮平原東部)に起源がある菜系です。

ちなみに淮安はマルコポーロの記録にも出てくる古くからの商業地です。

モノとおカネが集まるところで食文化が発達するのは中国の法則。

この地域は長江に面しているので河の食材を使うのがひとつの特徴になります。

中国の淡水魚は海の魚に負けず劣らず大きいので様々な料理に使われます。ここが日本の食文化との大きな違いですね。

味付けは比較的あっさりしています。

ちなみに現在の国宴料理の多くは淮揚菜です。

淮揚菜には古くから厳しい食事のマナーがあり格式が高いので正式な会食に向いているからだと言われています。

ただし食のビジネスの観点からはあまり大衆受けする菜系ではないと言われています。

8大菜系

ここまでで紹介した4大菜系が中華料理のトラディショナルです。現在はさらに4系統が加わって8大菜系になっているわけです。

中国人を接待するときは8大菜系を参考にしながら出身地に合わせて食の傾向を選ぶと喜ばれるでしょう。

閩菜

閩菜は大雑把に言えば福建料理です。

土地柄から海鮮料理が目立ちますが山の幸も豊かなので「山珍海味」が特徴です。

清の末期から福建は対外貿易の拠点のひとつになり空前の経済的繁栄の時代を迎えました。

中国の商売には飲食接待が欠かせません。この時期に高級レストランが林立したのです。

そうしたレストランが発明したのが鶏茸金絲笋、三鮮焖海参、班指干貝、茸湯広肚、鶏絲燕窝、茘枝肉、沙茶鶏丁、「おいしんぼ」でおなじみの佛跳墙などの料理です。

閩菜といえば「湯」。つまりスープが有名です。機会があれば「佛跳墙」よりも「神品」と呼ばれる鶏湯氽海蚌を食すべきでしょう。

また紅糟肉、紅糟鶏など「紅糟」を使う調理法も独特です。

紅糟は日本で言う「紅麹」に相当するモノ。

『本草綱目』では活血、『飲膳正要』には健脾、益気、温中などの効能が記されています。

ちなみに紅糟を作り出すカビの中にはカビ毒を産生する株もあります。

現在では毒を産生しない株が選択されていると言われていますが、妊婦さんは念のため避けたほうがよいでしょう。

湘菜

湘菜は湖南料理です。中国では四川料理と双璧と言ってよいくらい大衆受けしている菜系です。

料理の特徴は「油重色濃」、味の特徴は「酸辣」です。

日本ではトウガラシを使う中華料理と言うと四川料理というイメージが強いと思いますが、中国では湖南料理もトウガラシを大量に使うことで有名です。

なぜ湖南省でトウガラシが好まれるのかについては諸説あります。

湖南省は貧しい地域なので塩を買うことができない人が多くトウガラシで代替することで激辛料理が発達したというのが経済的な説明です。

薬膳理論的には湖南省は「湿」が多い土地なのでトウガラシの発散力で湿が溜まるのを防いでいると言われています。体が自然にそういうふうに変化するというわけです。

湖南省出身者以外の人でも湖南省に来ると激辛料理が好きになると言われていますから薬膳的な説明に理があるようです。

ちなみに私は湖南のトウガラシ製品を食したことがありますが、トウガラシの品種自体が上海で流通しているものとは違い、激辛・鬼辛・死辛のトウガラシでした。

湖南料理は中国各地で人気ですが、外地で食べる湖南料理は「手加減」して作られていると思われます。

湖南料理の代表格である剁椒魚頭(唐辛子と魚頭の蒸しもの)は上海でも食べられるポピュラーな料理です。

唐辛子と魚頭の蒸しもの

徽菜

明から清の時代にかけて安徽省の商人(徽商)が中国の商業界を席巻していました。当時の徽商は中国全土に支店網を広げていたのです。

徽商が他国で地元の料理を食べるために安徽省の食文化を持ち込んだため、徽菜の知名度が上がり8大菜系のひとつに数えられるようになったと言われています。

安徽省はやや内陸部に位置するので徽菜の中には独特な山の幸や珍しい保存食を使った料理があります。

中国各地の食文化を紹介するテレビ番組で取り上げられて全国的な知名度を獲得した川魚の加工品臭鳜鱼やハクビシンの料理雪天牛尾狸などは徽菜の代表的な料理のひとつです。

また安徽省のタケノコは有名で問政山笋などの名菜に利用されています。

味の特徴は「重油」で塩味が強いところだとされています。こってりした味が好まれるということですね。

確かに有名な清蒸石鶏は「清蒸」といいつつかなり濃い味付けです。ただし非常に美味でご飯が進みます。

食材の関係上、徽菜を食べるなら安徽省まで行って食すのがベストでしょう。

浙江菜

南宋の時代に都が杭州に移って以来、浙江は文化・経済の中心地になりました。

今でも有名な浙江料理の起源は宋の時代に遡るものが多数あります。

宋の時代の料理は現在の日本料理にも通じる素材の味を生かした料理が多かったようです。

当時の中国にはトウガラシやトマトなど南米原産の食材がまだ入っていませんでした。

その頃のなごりは浙江菜に残っています。川魚料理、豆腐料理、火腿(中国の生ハム)料理など旨味を生かした油の少ない料理が真骨頂でしょう。

また浙江は「魚米之郷」と呼ばれる稲作地帯ですから紹興酒で有名な「黄酒」の産地でもあります。

料理に黄酒を多用するのも浙江菜の特徴のひとつです。

例えば中国のサバランこと袁枚(えんばい)の『随園食単』にも出てくる雲林鵝などは黄酒、蜂蜜、小葱、花椒で味を付ける素材の味を生かした料理です。

浙江菜は杭州、紹興のような観光地や寧波、温州のような商業の街が本場なので観光やお仕事で訪問する機会がある人も多いでしょう。

そのようなときにはぜひ浙江菜をお楽しみください。数えきれないくらいたくさんの名菜が揃っています。

北方の菜系が少ないのはなぜ?

8大菜系のうちいちばん北に位置するのが山東菜系のエリアです。他の7菜系のエリアは全て山東菜のエリアより南に位置します。

なぜ南方の菜系がバリエーションに富んでいるのか、なぜ北方の内陸部には菜系と呼ばれる特色がないのでしょうか。

「陝西省には菜系がない。なぜなら麺しか食べないから」という日本人にはピンと来ない陝西省ジョークがあります。

中国の北方は小麦粉文化の土地です。食べ物は麺が中心になります。この場合の「麺」は粉モノ全てを含みます。

中国ではパンもヌードルも麺なのです。餃子や肉まんも麺に相当します。

「菜」はご飯のおかずという位置づけなので、粉モノ文化の土地には「菜」文化が発達しなかったわけです。

南方に多くの菜系があるのは地理的な条件が関係していると言われています。

南方は山脈で土地が区切られているために食文化交流が少なかったので、各土地で食文化のガラパゴス化が進み独自の菜系が形成されたというわけです。

現在の中国ではおいしい料理は全国化しているので例えば四川料理の店以外でも麻婆豆腐や辣子鶏を出すのは当たり前になっています。

食の地域性は今後ますます薄れて行くでしょうね。

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