中国のサンショ「花椒」の大産地は司馬遷の故郷

韓城

中国の地図を開くと真ん中に位置するのが陝西省(せんせいしょう)です。

陝西省と山西省の境界には黄河が流れています。黄河と言うと西から東に流れるイメージがありますが、この区域では北から南に流れています。

その黄河の西岸に韓城という街があります。

韓城は歴史の長い街です。

いちばん古い記録によれば竜門と呼ばれていたようです。その後、韓国、梁国などと名前が変わっています。

秦の時代には夏陽県と呼ばれていました。隋の時代になってから韓城と呼ばれるようになったようです。

韓城は歴史家・司馬遷の故郷として有名です。司馬遷の墓も韓城にあります。

司馬遷の墓は韓城の中で最も有名な観光スポットであり、中国のインテリの聖地のひとつに数えられています。

大紅袍

韓城には司馬遷と並んで有名なモノがもうひとつあります。それは「大紅袍」です。

文字通りに訳せば「大きな赤いドレス」。

中国茶に詳しい方は「それは銘茶だよ」と思ったでしょう。でも韓城の大紅袍はお茶ではありません。実はコレ、サンショなのです。

「大紅袍」は大粒で赤いサンショの最高級品です。韓城は「大紅袍」の大産地なのです。

中国には小麦の収穫期に出稼ぎに行く「麦客」という季節労働者がいます。

韓城にはサンショの収穫を助けるために「椒客」と呼ばれる人たちが外地からやってきます。

当地の人手だけでは収穫が不可能なほどたくさんの「大紅袍」があるからです。

サンショは収穫したらすぐに天日干しにして乾燥させなければいけません。水分を含んだままで置いておくとカビが生えてしまうからです。

サンショの収穫も加工もなかなかの重労働です。またサンショの木にはトゲがあるので小さなケガが絶えません。

それでも一度「椒客」になった人は次の年もやってくると言われています。

なぜかというとサンショの産地特有の「まかない」の味が忘れられないからだそうです。

韓城の食

韓城は主食は粉モノで肉は羊肉が中心の食文化圏です。

麺料理の味付けには四川料理と同じような麻辣味が使われ、肉料理にはサンショの実で味付けをしたり、サンショの葉で香りづけをしたりします。

また麺にサンショの葉を練り込む食べ方もあるようです。

薬膳理論によると香辛料を利かせた料理は「湿」が多い土地に適しています。

そころが韓城はどちらかと言うと乾燥地帯です。

このような土地でなぜ香辛料たっぷりの味付けが好まれるのか。

これには経済的な理由があると言われています。

陝西省は内陸部の土地なので沿海部に比べると貧しい土地です。

特に昔は十分な「おかず」を確保できなかったので、ラー油や香辛料をたくさん使って少量の「おかず」でたくさんの主食を食べる習慣が定着したと言われています。

薬膳的には好ましくないけれども仕方なくスパイシーな食べ物を食べていると言えなくもないわけです。

確かに韓城の料理の中にはスパイシーではない名菜もたくさんありますから、お金持ちは昔からそういう料理を食べていたのかもしれません。

サンショの薬膳的性質

トウガラシが中国に伝わる以前の中国ではサンショは香辛料の代表格でした。その頃からの影響かもしれませんが、中華料理では今でもサンショを多用します。

四川料理でよく使われることは有名ですが、他の地域でもメジャーな香辛料なのです。

本格的な中華料理を作ろうと思えば、大量のサンショを使いこなさなければなりません。でもその前に薬膳的な性質を知っておいて損はないでしょう。

サンショのサーマルタイプは温性です。スパイスはだいたい温性ですね。

功能は温中散寒、除湿、止痛、殺虫、解魚腥毒です。

最後の功能は魚による食当たり防止の作用なので日本で「うなぎ」を食べるときにサンショを使うことと関係があるかもしれません。

日本でも使われている漢方薬・大建中湯(だいけんちゅうとう)にはサンショが含まれますが、大建中湯の中でのサンショは温中散寒、止痛を目的として加えられています。

大建中湯は漢方理論的には陽虚に実寒が合併して腹が痛むときに用いる処方です。これを改善するわけですからサンショの温性はかなりのものと思ってよいでしょう。

ちなみにサンショは「有毒」とされています。

文字通り「毒」というよりも、それだけ作用が強いと考えればよいでしょう。要するに使い過ぎは良くないということです。

サンショは日本ではあまり使われない香辛料ですが、韓城ではプリンにも入っているそうです。

サンショの可能性は広いのでサンショの産地は村おこしの起爆剤として新製品開発をしてみてはいかがでしょうか。

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