冷え性の原因
冷え性にはいくつかのタイプがあります。極端な「寒がり」も冷え性の一種ですが、通常は手足の先が冷えて困る場合に冷え性ということが多いようです。
薬膳理論によれば冷え性の原因は大きく分けてふたつあります。
ひとつは体を温めるパワーである「陽」が弱くなっている場合です。このような状態を陽虚と言います。読み方は「ようきょ」です。
もうひとつは陽や血のめぐりが悪いパターンです。
陽のめぐりが悪くなると陽が不足していなくても手足の先が冷えてしまいます。
まだ年齢が若くて陽が充実しているのに手足の先が冷えるのは陽のめぐりが悪いからです。陽を補っても冷え性が解消しないことがあるのは陽のめぐりが悪いからです。
また栄養成分である血が不足すると手足の末端の活性が低くなり冷えてしまいます。
以上のように冷え性にはいくつかのタイプがあります。薬膳(漢方)を用いるときは、それぞれのタイプに合ったケアをしなければ改善しません。
友達の冷え性が漢方で改善したという話を聞いて自分も同じ漢方薬を飲んでみたけど効かなかった。このような体験をする人がいるのは冷え性のタイプに違いがあるからです。
「陽」の不足は腎陽虚
冷え性の原因となる陽虚は多くの場合腎陽虚というタイプの陽虚です。
薬膳(漢方)理論によると陽のうちでも特に「腎陽」が不足すると冷え性になりやすいのです。では「腎陽」とは何でしょうか?
腎陽は陽の根本であり成長や生殖をつかさどる生命エネルギーです。
腎陽にはからだを温めるだけではなく若さを保ち積極性を維持する作用があります。
腎陽は年齢とともに弱まるとされているので高齢者の腎陽は弱くなっているのがふつうです。
年齢が若くても大きな病気や失恋などのように生命エネルギーを消耗するような大きなイベントを体験すると腎陽が失われることがあります。
腎陽が不足すると手足の先だけではなくてからだ全体が冷えてしまいます。
薬膳(漢方)理論的には極端に寒がりの人は腎陽が不足していると考えます。
腎陽虚をケアするには補陽薬膳が適しています。ところが補陽作用がある食材は数が限られています。しかもニラやマトンのようにクセがある食材が多いのです。
そこで薬膳的には温性の薬膳でケアするのが現実的です。ポイントは寒性の食事でさらに体を冷やさないようにすることです。
薬膳理論によると「アツアツの鍋料理」でも体を冷やす食材を使うと寒性の食事になってしまいます。
薬膳の言葉で「からだを温める」というのは料理の「温度」ではなく料理の「作用」を表します。
このウェブサイトのサーマコンディション分析を使えばどのような料理が体を温めるか手軽に知ることができます。
「めぐりの悪さ」の3パターン
薬膳(漢方)理論によると正常な人の場合は陽や血が体内をスムースに循環しています。
ところがこの循環はさまざまな理由で妨げられてしまいます。そうなると手足の末端まで陽や血が十分に届かなくなります。
ですから体を温めるエネルギーが十分にあっても手足の先は冷えてしまうのです。
例えば「からだは火照っているのに手足の先は冷たい」場合は「めぐりの悪さ」が原因です。
体内の循環が妨害される原因によって「めぐりの悪さ」はおおむね3パターンに分類できます。
その3パターンとは血虚寒凝、肝鬱血滞、脾胃虚寒です。
なんだか難しそうですね。でもこの時点で意味がわからなくてもぜんぜん問題ありません。これからわかりやすく説明します。
血虚寒凝
血虚寒凝は血が不足することで血の巡りが悪くなっている状態です。
こういう状態になると手足の先まで栄養が行き渡らないので冷えやすくなります。
薬膳(漢方)理論の「血」は血液とは違います。薬膳(漢方)理論によると血は増えたり減ったりします。特に女性の場合は生理の後に血が減るとされています。
ここまでは何となくわかりますが、頭を使いすぎたり考え事が多くなったりしても血が減るとされています。薬膳(漢方)理論によると血は精神活動によって消費されるからです。
血の量が減るとその結果として血のめぐりが悪くなり手足の先が冷えてしまうのです。
こういう場合は血を増やす作用がある補血薬膳が適しています。もちろん食事のサーマルタイプを温性にすることが前提です。
肝鬱血滞
肝鬱血滞は気の流れが停滞しているせいで血のめぐりが悪くなり、そのせいで手足の先に栄養が十分に届かずに冷えてしまう状態です。
血は気のエネルギーによって循環しています。ですから気の流れがおかしくなると血のめぐりにも影響が出てしまうのです。
特に肝気というタイプの気は体内の「めぐり」をコントロールしているので肝気の停滞は冷え性の原因になるのです。
肝気が停滞することを肝鬱(かんうつ)と言います。
肝鬱の原因はメンタルストレスです。ですからこのタイプの体調不良は現代人にはよく見られます。
薬膳(漢方)理論に詳しい人は肝鬱は重症化すると肝鬱化火という熱証になることをご存知でしょう。ところが肝鬱が冷え性の原因になることもあるわけです。
肝鬱をケアするは 疏肝(そかん)という方法を使います。
疏肝は理気の一種です。つまり気のめぐりを促進する方法です。特に肝気の停滞を改善する場合に疏肝という言葉を使います。
疏肝作用のある食材もありますが、薬膳的には理気作用がある食材を選べば十分です。
中国の資料を見ても疏肝を目的にした薬膳メニューには理気作用がある食材を使うケースがほとんどです。
例えばガラムマサラを使ったカレーには強力な理気作用があります。
脾胃虚寒
脾胃虚寒は脾と胃の機能が低下した状態です。
一般的には寒性の食品や脾に負担をかけるタイプの食品を食べ過ぎることが原因になります。
脾と胃が弱ると手足の先を温めることができなくなります。これにはふたつの理由があります。
脾と胃には食べ物を消化して気を生成する働きがあります。
「陽」の実質は「気」ですから、脾が弱ると気(陽)が不足してからだを温めることができなくなります。これがひとつ目の理由です。
脾にはさらに重要な働きがあります。それは陽を手足の先まで送り届ける働きです。
この機能が弱ると陽が十分にあっても手足の先は冷えてしまいます。
脾と胃が弱ると見た目が元気が無さそうになるのでだいたいわかります。また食欲不振になったり下痢気味になったりするなど胃腸のトラブルが出てきます。
このような場合には温中健脾という手段でケアします。脾胃を温めて機能を高めるわけです。
具体的には健脾作用のある食材を使った温性薬膳が適しています。
まとめ
薬膳理論には難易度に応じたレベルがあります。
陽が不足しているときにおススメの温性薬膳は初心者向けの薬膳です。その気になれば今日からでも始められます。
ところが「めぐり」を改善するための補血薬膳、理気薬膳、健脾薬膳はかなりレベルが高い薬膳です。
血虚寒凝、肝鬱血滞、脾胃虚寒を見分けてそれぞれに合った薬膳を作るにはインストラクターレベルの知識が必要です。
そこまでのレベルになるにはかなりの勉強が必要になります。
薬膳の神髄は楽しむことにあります。あまりにもキツイお勉強はおススメしません。そこでもっと手軽な薬膳ケアのコツを伝授しましょう。
体幹部に冷えがある場合は「とにかく温性薬膳を食べる」。手足の先が冷える場合は「平性または温性薬膳を食べる」でOKです。
からだには自己回復能力があります。現状維持の薬膳を食べていれば徐々にコンディションが回復してくるのです。
一番避けなければいけないのが「今のコンディションを悪化させる食事」です。
からだを冷やす食事や偏った食事を避けるだけでも「冷え性を改善する薬膳」になります。
薬膳を難しく考えずにさっそく今日から実践してみましょう!