漢方医学書の中の薬膳料理

漢方医学書の中の薬膳料理

薬膳は漢方の一部です。

「そう言えば何となくそんな話を聞いたことがあるな~、でも具体的にどういうことかわからない…」と思う人も多いでしょう。

そこで昔は薬膳は薬そのものだったという具体例をご紹介したいと思います。

何と! 昔から漢方の医学書の中には料理のレシピが載っているのです。

当帰生姜羊肉湯

漢方医学書の中のレシピとして最も有名なのは『金匱要略』の中の当帰生姜羊肉湯です。

その名の通り当帰(トウキ)、生姜(ショウガ)、羊の肉で作るスープ。

これは冷えによる腹痛をケアする「漢方薬」なのです。特に産後の女性のケアに適しています。

当帰生姜羊肉湯に別の薬や食材を加えたバリエーションは豊富で、後の複数の医学書に収載されています。

例えば『千金要方』には芍薬(シャクヤク)を加えた当帰生姜羊肉湯が載っています。この羊のスープには「千金当帰湯」という名前がついています。

日本では当帰はいかにも漢方薬という感じで敷居が高いのですが、中国では中薬市場に行けば誰でも買うことができる身近な存在です。

ですから中国では自宅で産後のお嫁さんのために当帰生姜羊肉湯を作る人もいます。何ともほほえましい習慣ですね。

雪梨漿方

比較的新しい医学書にも一般的な食品を用いた治療法が載っています。

清代の医学書である呉鞠通は『温病条弁』という医学書を残しています。読み方は「うんびょうじょうべん」です。これは中国医学史上とても有名で重要な医学書です。

呉鞠通(ごきくつう:1758-1836)は若いときに父や親戚が病死したこともあって、従来の医学の不備を自覚し、独自の医学理論を構築したことで知られています。

その成果が『温病条弁』に記されているのです。

温病(うんびょう)というのは伝染病の一種です。

中国医学のバイブルとも言うべき『傷寒論』の「傷寒」も伝染病ですが、温病は傷寒とは違う伝染性の熱病であり、傷寒とは違う分析手法で治療しなければならなかったのです。

その分析手法を確立したことが『温病条弁』の功績です。

中医を勉強した人なら必ずおぼえる桑杏湯、桑菊飲、銀翹散、杏蘇散の使い分けは『温病条弁』に基づいています。

ここまでは『温病条弁』ってスゴイ医学書なんですというご紹介。内容がわからなくても問題ないです。

その『温病条弁』の中に「雪梨漿方」という治療法が載っています。その内容は以下の通り。

大きな梨を薄切りにして汲んだばかりの水に浸して半日おく。この水を少しづつ頻繁に飲む。

これは温病が進行する特定のステージの時に喉が乾燥する感覚を和らげる方法です。

虫草蒸老鴨

清代の博学の医学者・趙学敏(ちょうがくびん:1719-1805)は『本草綱目拾遺』という書物を残しました。この医学書はタイトルの通り明代の『本草綱目』を補う位置づけの本草書です。

『本草綱目』に載っていなかった薬を収載し『本草綱目』ではあいまいだった部分を明確化しています。この本も漢方の世界では非常に有名です。

その『本草綱目拾遺』の中に「虫草蒸老鴨」が載っています。

虫草というのは冬虫夏草です。作り方は以下の通り。

内臓を取り去った鴨の腹に冬虫夏草を入れて糸で縫い、醤油と酒の入った容器に入れて肉が柔らかくなるまで蒸す。

これは病み上がりの人の体力回復のための「薬」です。

この料理は中国の高級レストラン行けばメニューに載っていることもありますが、冬虫夏草を腹に詰めるのではなくて外側から肉に突き刺したスタイルが多いようです。

楂梨膏

明代・万暦年間の名医・龚廷賢[gōng tíng xián](1522-1619)が残した『寿世保元』には「楂梨膏」のレシピが載っています。

ちなみに龚廷賢は明末を代表する大医学者で、日本でも有名な『万病回春』の著者でもあります。

さて「楂梨膏」のレシピは次の通り。

サンザシと梨を等量潰して汁を集め、蜂蜜と一緒に煮詰める。

これは食べ過ぎによる胃のもたれを解消する薬です。サンザシの酸味と蜜の甘み。絶対においしいハズ。

サンザシの酸味は中華スイーツを作るときのアクセントとして最高。

ただしナマのサンザシは日本では入手困難なのが残念です。

もしも手に入るなら簡単に作れる明代の漢方スイーツ「楂梨膏」を作ってみましょう。

漢方医学書の中には料理やスイーツのレシピだけではなく薬酒のレシピも載っています。

真面目な勉強も必要ですが、たまにはレシピを探すために医学書を読むのもオモシロいですよ。

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