薬補不如食補
薬膳の世界には薬補不如食補という言葉があります。
この言葉は薬で補うよりも食事で補う方が良いという意味ですが、ザックリ言えば「薬膳は薬よりも優れている」と言いたいわけです。
薬のほうが効き目が強そうなのにどうして薬膳は薬よりも優れているのでしょうか?
ここにフードセラピーだけではなく健康管理全てに通じるの秘訣が隠されています。
弱いほうがよい
食事の作用は薬より弱いのがふつうです。
言い方を変えれば薬膳の作用は漢方薬の作用より穏やかです。
弱い、穏やか。
実はこれこそが薬膳が優れている理由なのです。
作用が強い薬を使うと体のコンディションに大きな変化が起きます。
この変化が良い方向に向かう変化ならよいのですが、間違った方向に向かうとコンディションを大きく悪化させてしまいます。
ですから作用が穏やかな薬膳は先ず第一に安全なのです。
何事にも「ちょうどよい」レベルがある
また「からだによいこと」には「ちょうどよい」レベルがあります。
たとえば体が冷えているとします。
こういうときは体を温めることが「からだによいこと」なのですが、あまりにも強く温めすぎるとこんどは体が熱を持ちすぎて別も問題が出てきます。
少しずつ少しずつ温めればこういう問題はおこりません。体が程よく温まったところで体を温める薬膳から寒熱の偏りがない薬膳に変更すればよいわけです。
なんでもやり過ぎたらダメに決まってるじゃないかと思われるかもしれませんが、健康に関してはこの当たり前のことがすぐに忘れられてしまいます。
例えばレモン10個分のビタミンCと聞いたときにどう思いますか?。
何だかスゴそう! 体に良さそう! そう思う人は少なくないでしょう。
でも薬膳でレモン10個を出したらおかしくないですか?
明らかに多すぎますよね。
でもその成分を口にするのは「何だかよさそう」だと感じてしまうのです。
なぜかというとビタミンCは体に良いという前提があり、体に良いものは多ければ多いほど良いと考えがちだからです。
ですから「からだによいこと」には「ちょうどよい」レベルがあると意識していない限り「やり過ぎ」になるのが普通なのです。特に単品の「からだに良い食べ物」はそうなりがちです。
これだから情弱はダメなんだとか、そんなのはバカだからだという認識は間違っています。人間という生き物は「やり過ぎる」生き物なのです。
「これが体に良い!」というタイプのフードセラピーは「やり過ぎ」を生み、その結果成果があがらずに廃れて行きます。
薬膳は決まった料理ではありません。
ですから決まったものだけを大量に食べるという発想につながりづらいというメリットがあります。
薬膳は微調整に向いている
ふだんの私たちのコンディションは理想的な状態ではないけれども極端に乱れた状態でもありません。
わずかな乱れを調整するには作用が穏やかな薬膳のほうが適しています。
例えば陽を少しだけ補いたいときに強力な漢方薬を使ったりすると、陽が強くなり過ぎてかえって陰陽バランスを乱してしまいます。
中国では漢方薬が入った鍋料理を食べて陽が急激に強まり、体調を悪化させる人がかなりいるようです。
漢方薬が手軽に手に入る環境にはこういう危険性も潜んでいるわけです。
日本では強力な漢方薬は簡単には手に入りません。これは薬膳にとっては良いことなのです。
薬膳は病気の治療には力不足
薬膳の作用は穏やかですからインナーバランスが大きく乱れて病気になってしまった場合には力不足です。
病気になったら作用が強い薬のほうが効果的です。ですから病気になってから薬膳を食べようという発想は間違っています。
現代社会では薬膳の役割は病気の治療ではありません。
別の記事でも書きましたが薬膳は幸せになるためのテクノロジーです。
病気になってしまったらできるだけ早い段階で専門家の治療を受けるのが正しい薬膳ライフです。
なお病気の時にはふだんよりも一層食事に気をつけたほうがよいので、そのときのコンディションに適した薬膳を食べたほうがよいに決まっています。
薬膳「だけ」で病気を治そうという発想は治療のタイミングを遅らせてしまうことがあるので危険だということです。