漢方のユニークさ
漢方医学と西洋医学にはいくつもの違いがあります。
例えば西洋医学の世界では治療の前に「診断」が必要です。診断のためには検査や問診が必要になります。
診断ができない場合、つまり何という病気なのかわからない場合には治療方法もわかりません。
このことは実際の治療現場では非常に深刻な問題です。原因不明の体調不良は少なくないからです。
いくら検査を繰り返しても原因がわからない。だけど常に痛みを感じる。こういうケースは実際にあるのです。
また「なんとなくだるい」とか「やる気が出ない」とか「以前に比べてパフォーマンスが落ちている」ことを自覚しているけれども医師に相談しても特定の病気が見つからないという場合もあります。
病気ではないとなるとどのようにケアすればよいのかわかりません。病名診断が治療の前提だからです。
ところが漢方は違います。
漢方には弁証論治という独特な治療プロセスがあるからです。
弁証論治の読み方は「べんしょうろんち」です。簡単に言えば「証がわかると治療法がわかる」という意味です。
そう言われても証が何かわからないのがふつうだと思います。証という言葉自体が漢方の専門用語だからです。
漢方は病気を「直接」治す医学ではありません
漢方理論によると人の体の中にはいくつかの種類の生命エネルギーや栄養成分が循環しています。
生命エネルギーや栄養成分は環境の影響や食べ物の影響などによって量が増えたり減ったりします。
漢方的に分析すると人体のコンディションは常に変化しているのです。
生命エネルギーや栄養成分が減る(虚といいます)と内臓の働きなどが悪くなり、生命エネルギーや栄養成分が増えすぎる(実といいます)と熱が出たり痛みが出たりします。
また生命エネルギーや栄養成分の「めぐり」が悪化すると体の中に余計なもの(さまざまな病理物質)が溜まって体調を悪化させます。
漢方医学の世界では「病気」は生命エネルギーや栄養成分の量や「めぐり」が異常な状態だと考えられています。
ですから漢方治療の目的は生命エネルギーや栄養成分の量や「めぐり」を整えることなのです。
そうすることによってあらゆる病気は治ってしまうというのが漢方の基本思想です。
多くの人にとっては意外だと思いますが、漢方は病気を直接治す医学ではありません。
漢方は病気のモトになっている生命エネルギーや栄養成分の「偏り」や「乱れ」を治す医学なのです。
漢方の目的は「証」の改善
体の中の生命エネルギーや栄養成分の量や「めぐり」がどうなっているかを表す言葉が証です。
実は証は漢方医学の最重要概念です。漢方の特徴も漢方治療の独自性も証と関係があるからです。
証は特別な漢方用語なので難しそうに感じますが、具体的に考えれば基本原理は単純です。
例えば代表的な生命エネルギーである「気」が不足している状態を気虚証と言います。
漢方の世界で「虚」という言葉は「不足している」とか「弱い」という意味です。
気虚に「証」というワードが加わることで、その人のコンディションが「気が不足した状態です」という意味になるのです。
このように「この人は気が不足した状態です」と証を判定した場合には「気を補う」ことによってコンディションを整えます。
具体的には補気剤というタイプの漢方薬を使って不足している気を補うのです。これが漢方治療であり、薬膳ケアの考え方でもあります。
専門的に言うと漢方薬には「かぜ薬」や「糖尿病の薬」はありません。全ての漢方薬は「証」を改善するための薬なのです。
漢方には「治療法がわからない」状態はない
漢方医や薬膳の専門家はわたしたちの体や心に現れるサインを総合して証を判定します。
漢方と言うと定番の「脈」や「舌」をみる診断法も証を判定する手段の一種です。
証は必ず判定できます。たとえ病名がわからなくても証は判定できます。
どんな人の体にも生命エネルギーや栄養成分がめぐっているので、その状態を表す証がない人はいないからです。
証を判定できれば治療法が決まります。このことを弁証論治ということはこの記事の最初の部分でご紹介した通りです。
どんな人にも証がある。証がわかれば治療方針が決まる。
ですから漢方は「どのように治療すればよいかわからない」状態になることはないのです。「匙を投げる」こともあり得ません。
どんな人に対してもどんな状況の人に対してもケアの方法を見出すことができる。これが漢方医学の非常に大きな特徴なのです。
言うまでもありませんが薬膳も漢方と同様の考え方に基づいたフードセラピーです。ですから漢方と同じ特徴をもっています。薬膳も特定の病気をケアするものではなく、証を整えるテクノロジーなのです。
インナーバランス
TCMediCo のウェブサイト内、養生医学研究協会のコンテンツの中では証をインナーバランスと表記しています。
現代の日本では証というよりもインナーバランスと言ったほうが言葉の意味をイメージしやすいからです。
TCMediCo はできるだけ多くの人に漢方と薬膳に親しみを感じていただけるよう工夫をしています。
新しい用語法は薬膳普及のための TCMediCo の取り組みの一部です。