「湿」ってなに?
「肩こり」や「冷え性」を外国語に訳そうとするとピッタリした言葉がみつかりません。「肩こり」は日本人ならすぐにわかるけど外国人にはピンと来ないようです。
その逆に日本にはないけど中国人がよく使う体調不良を表す言葉があります。
例えば「上火」などは中国では非常によく使われる言葉ですが、日本では「上火」に相当する言葉はあまり使われません。
日本人にとって当たり前のことが外国人にはピンと来ない。その逆もある。これは不思議な気もしますが真実です。つまり体調不良にも文化性があるのです。
体のトラブルは体だけの問題ではなく「全て」と関係があるということです。このことを漢方理論は「整体観念」という言葉で表しています。
ただし、こういう難しい話は今回の主題ではありません。
今回は日本ではあまりなじみがない湿という言葉がテーマです。
謎の薬膳用語「湿」
日本語でも「梅雨どきは湿気が気になる」というように「湿」は「湿度が高い」とか「じめじめしている」ことを表す言葉として使われています。
中国語の「湿」も同じ意味を持ちますが、さらに体調不良の原因という意味で使われることも少なくありません。
中国人には「湿」による体調不良には一定の共通認識があるのです。この部分は日本人にはピンときません。
いくつもの具体的な用例に接しているうちに何となく「湿というのはこういう感じかな」という感覚がわかってきます。
「湿」のイメージは慢性的で、しつこく、だるい感じです。
体の中に「湿」が増えると激しい症状ではないのですが、ずーっと治らない不快な症状が続き、精神的にも肉体的にも活力を失うと考えられています。
ですから中国人は「湿」を避けようとします。
では「湿」はどこからくるのでしょうか?
「湿」が溜まるわけ
一番わかりやすいのは湿気が多い環境にいると体内に「湿」が溜まるという説明です。
盆地や水に近い地域では環境の「湿」が多いので人間の体内にも「湿」が溜まりやすいと考えられています。
また湿気の多い工場などで働くと体内に「湿」が溜まってしまうとも言われています。
昔はカイコの繭を煮て絹糸を生産していましたが、そういう工場で働く人には「湿」による病気が多いと言われていたのです。こういう発想は中国独特の発想だと思います。
もうひとつの原因は飲食物です。
体の中に「湿」が増えやすい食べ物があるとされています。これも日本の常識にはない発想ですね。
薬膳理論によると何かを食べたときに直接「湿」が溜まるわけではありません。食べ物から吸収されるのは体にとって有益な成分です。
ただし有益な成分も体内での「めぐり」が悪くなると「湿」に変化してしまうのです。
「湿」に変化するのは大きな枠組みで言えば「陰」です。
陰に分類される成分のうち「津液」と呼ばれるものの「めぐり」が悪くなると「湿」に変わってしまうのです。
「陰」や「津液」は体の陰陽バランスを維持したり体の潤いを保つために必要です。肌のコンディションを保つ「美容薬膳」の多くは補陰薬膳なのです。
ただし陰や津液が多すぎると体内に「湿」が溜まってしまいます。そうなると肥満体質になり、肌にはイボができやすくなります。
「美肌効果があるものはたくさん食べればたくさん食べるほど効果的」とはならないのです。
体に良いものも多すぎると停滞して「余計なモノ」に変化してしまうのです。
ですから薬膳を実践するときは「ちょうどよい」レベルがあることを意識することが大切です。